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名古屋高等裁判所 昭和48年(ラ)180号 決定 1974年2月22日

抗告人 牧正一

右代理人弁護士 井上恵文

同 大嶋芳樹

相手方 都築隆司

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は「原決定を取消す。本件を東京地方裁判所に移送する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求めたが、その理由とするところは別紙(一)記載のとおりである。

よって審按するに、一件記録によると、原裁判所は同庁昭和四八年(ワ)第一一五一号立替金請求事件において被告たる抗告人から別紙(二)記載のとおりの理由に基づき移送の申立がなされ、本位的に原裁判所の同事件に対する管轄権を争う意思が示されたので(右申立の理由二)、まず右管轄権の存否について審理した結果中間判決をもって同裁判所が同事件の管轄権を有する旨の判断をなしたことが認められる。

ところで民事訴訟法第三〇条第一項に基づく移送の裁判は、裁判所が訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めたとき職権により決定をもってなすものであって、当事者はこれにつき移送の申立権を有するものではないから、抗告人がなした前記管轄違を理由とする移送の申立はたんに原裁判所に対し職権の発動を促す趣旨のものにすぎないというべきである。したがって原裁判所において審理の結果右事件について管轄権の存在を肯定する場合においては特段右申立を却下する旨の裁判をなすことは要しないのであって、同法第一八四条に定める中間の争ある場合として中間判決によって管轄権の存在を判断し、あるいは終局判決においてその判断を示せば足りるものと解するのが相当である。それ故本件において原裁判所が管轄権を有する旨の判断を中間判決によって示したことはもとより適式なものというべきであり、原裁判所がもし右の結論をとるならば本件移送の申立を却下する旨の決定をなすべきであったとの抗告人の見解にはにわかに左袒しがたい。

ところで抗告人は右中間判決は実質的には本件移送の申立を却下する旨の決定であるから、これに対しては即時抗告が許されるべきであると主張する。しかしながら右中間判決の「原裁判所は管轄権を有する」旨の判断それ自体から必然的に同裁判所が抗告人の民事訴訟法第三〇条第一項による職権の発動の求めには応じない態度を採っていることを窺い知ることはできるとしても、これは右判断によってもたらされる事実上の効果にすぎないものというべきであり、前叙のとおり同条所定の移送について当事者は申立権を有しない以上右判断をもって同裁判所が抗告人の申立にかかる移送の申立を却下する旨の決定をなしたものと解することはできない。してみれば右中間判決に対し同法第三三条に基づき即時抗告を申立てることは許されないものというべきである。

成程中間判決をもって管轄権を有する旨の判断がなされた場合においては、これに対しては独立して上訴が許されず(同法第三六〇条、第三六二条)、また控訴審においては専属管轄違背の場合を除き第一審裁判所が管轄権を有しないことを主張しえない(同法第三八一条)結果、右判断に対する不服申立の方法を欠くにいたることは所論のとおりであるけれども、これはもともと現行法が当事者に対し管轄違を理由とする移送の申立権を認めていないことから生ずることであってけだしやむをえないことであり、右のような結果を招来するからといって右中間判決によって移送申立の却下決定があったものとしてこれに対し即時抗告の申立が許されるものと解することはできない。

よって本件即時抗告は不適法であるからこれを却下することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡本元夫 裁判官 土井俊文 吉田宏)

<以下省略>

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